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山形地方裁判所 昭和45年(行ウ)3号 判決 1979年3月28日

鶴岡市日吉町一一番四一号

原告

株式会社 阿部かなもの

右代表者代表取締役

阿部千恵

右訴訟代理人弁護士

脇山弘

脇山淑子

右訴訟復代理人弁護士

加藤實

鶴岡市泉町五番七〇号

被告

鶴岡税務署長 高橋博

右指定代理人

佐渡賢一

千葉嘉昭

鈴木喜一

紅林實

山田昇

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(以下、阿部機工株式会社を「阿部機工」と、阿部金属株式会社を「阿部金属」と、株式会社阿部かなものを「阿部かなもの」と、阿部建装株式会社を「阿部建装」と、阿部物産株式会社を「阿部物産」と、株式会社阿部多三郎商店を「多三郎商店」と略称し、阿部かなものを原告または原告会社と称する。また、別紙物件目録(一)ないし(六)記載の各物件を順次、「店舗」、「一号倉庫」、「二号倉庫」、「三号倉庫」、または「三号倉庫(物置)」、「車庫」または「三号倉庫(車庫)」、「材料置場」と各略称する。

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、いずれも昭和四三年六月二九日付でした昭和四〇年四月一日から同四一年三月三一日まで、昭和四一年四月一日から同四二年三月三一日までの各事業年度分法人税に関する別紙処分目録各(一)欄記載の更正処分及び賦課決定処分(いずれも裁決により一部取消された後のもの、但し、賦課決定処分は第二期のみ、以下同じ)をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は被告に対し、昭和四一年五月三一日付で昭和四〇年四月一日から同四一年三月三一日までの事業年度(以下、「第一期」という。)の、昭和四二年五月三一日付で昭和四一年四月一日から同四二年三月三一日までの事業年度)以下、「第二期」という。)の所得に対する法人税につき、別紙処分目録各(二)欄記載のとおりの確定申告をした。

2  被告は右各申告に対し、いずれも昭和四三年六月二九日付で、別紙処分目録各(三)欄記載のとおりの更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、「原処分」という。)を行なった。

3  原告は被告に対し、昭和四三年七月二九日、原処分についての異議申立をしたが、被告が同年一〇月二六日付で右申立を棄却する旨の決定をしたので、原告は仙台国税局長に対し、同年一一月二五日、審査の請求をしたところ、右局長は翌四五年一月一四日付で原処分を別紙処分目録各(一)欄記載のとおりに変更する旨の原処分一部取消しの裁決をし、同年二月六日、右裁決書が原告に送達された。

4  しかし、右取消された部分を除く別紙処分目録号(一)欄記載の更正処分(以下、「本件更正処分」という。)及び賦課処分(以下、「本件賦課処分」という。)は、次の理由により違法であるから取消しを免れない。

(一) 被告は、原告が右各申告の際、所得金額算定上控除した多三郎商店に対する第一期分の金一九五万円、第二期分の金二〇四万円の各支払賃料のうち、順次、金一八万円、金二四万五〇〇〇円につき、賃料としての損金計上を否認したが、右賃料は相当な額であり、損金に該当する。

(二) 被告は、右賃料としての損金計上を否認した各部分を寄付金と認定したが、これは法人税法第三七条第六項の解釈を誤ったものである。

5  よって、原告は被告に対し、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4及び5の事実は争う。

三  被告の主張 ― 本件更正処分及び賦課処分の適法性

被告のした本件更正処分及び本件賦課処分は、次の理由により、いずれも適法である。

1  原告は、多三郎商店から店舗等の一部を賃借し、その賃借料として第一期において一九五万円、第二期において二〇四万円を各支払い、右各金額を当該事業年度の所得を算出するにあたり、損金の額に算入し、これを基礎として法人税の納税申告書を被告に提出した。

2  被告は、右各申告につき、原告から資料の提出を求めて調査した結果、第一期については、右一九五万円の支払賃料のうち、共同業務管理費三六万円(当該期間中一か月三万円の割合による)は相当と認めて損金算入を是認したが、その余の正味賃料一五九万円は経済的合理性を無視して過大に算定されていることから、合理的に算定した賃料(以下、「正常賃料」という。)を後述4のとおり一四一万円と認定し、右一五九万円のうち一四一万円を超える一八万円については、これを賃料としての損金計上を否認し、法人税法第三七条第五項所定の贈与金即ち寄付金と認定し、右寄付金一八万円が同条第二項の損金算入限度額を超えるため、同項の規定により、一八万円のうち一七万五七一一円を損金に算入しないこととし、さらに前期分(本件取消しの対象となっていない昭和三九年四月一日から同四〇年三月三一日までの事業年度分)の更正により増加した所得金額に対応する事業税額一万六六八〇円を損金に加算することとしたので、更正所得金額は、右一七万五七一一円と一万六六八〇円との差額一五万九〇三一円と、原告が確定申告の際所得として申告した八万一五六二円の合計二四万〇五九三円となり、法人税額は七万二六〇〇円となる。同様に、第二期については、右二〇四万円の支払賃料のうち、共同業務管理費三七万五〇〇〇円(昭和四一年四月から同年一二月まで一か月三万円、昭和四二年一月から同年三月まで一か月三万五〇〇〇円の割合による)は相当と認めたが、その余の正味賃料一六六万五〇〇〇円は過大に算定されていることから、正味賃料を一四二万円と認定し、右一六六万五〇〇〇円のうち一四二万円を超える二四万五〇〇〇円については、これを寄付金と認定し、右寄付金二四万五〇〇〇円のうち二四万〇五一九円を損金に算入しないこととし、さらに第一期分の更正により増加した所得金額に対応する事業税額一万四四〇〇円を損金に加算することとしたので、更正所得金額は、右二四万〇五一九円と一万四四〇〇円との差額二二万六一一九円と、原告が確定申告の際所得として申告した三万〇五一三円の合計二五万六六三二円となり、法人税額は六万八九〇〇円となる。よって国税通則法第二四条により更正処分をした。

なお、被告が認定した正常賃料及び寄付金の額を表にすると、次のとおりとなる。

3  右更正処分に伴って原告の納付すべき第二期分の法人税額算出の基礎となった事実がその更正前の税額算出の基礎とされていないことについて正当な理由があると認められないので、被告は、更正処分に基づく原告の納付すべき第二期分の法人税額に対し、国税通則法第六五条の規定により、三一〇〇円の過少申告加算税を賦課決定した。

4  被告の認定した正常賃料の算出過程は次のとおりである。

(一) 復成原価の算出

賃料鑑定評価方式の一つである積算式評価法により年額賃料を算出するため、先ず、原告が多三郎商店から賃借している店舗等を、賃貸借契約時(昭和三九年七月一日)及び更新契約時(昭和四〇年一月一日、昭和四二年一月一日)ごとに、店舗、一号倉庫、二号倉庫、三号倉庫、車庫、材料置場に区分して各物件の復成原価を別表(一)のとおり算定した。右復成原価の算定に当っては、平均的評価時点を昭和四一年一月一日に特定したうえ、次の方法によった。

(1) 店舗及び一号倉庫の敷地(鶴岡市日吉町一一番一五外九筆の土地)について

近接時期でかつ近接地域で売買された四件の取引事例を選定し、その実例取引価格に対して取引上の諸要因の修正をした後、右四例の坪当り単価八万六一四〇円を算出し、更に評価の安全度を考慮して、右単価の一〇パーセントを加算して九万四七五四円とし、千円未満を四捨五入して本件一〇筆の坪当り単価を九万五〇〇〇円と認定し、これに敷地面積三七五・九〇坪を乗じて昭和四一年一月一日現在の復成原価を三五七一万〇五〇〇円と認定した。次に、二年ごとに評価を改訂することが合理的であると認めて、計算期間の期首にあたる昭和三九年七月一日現在の価格につき、右昭和四一年一月一日現在の復成原価を基礎に、財団法人日本不動産研究所発行の「全国市街地価格指数」を参考資料として昭和三九年七月一日における指数と昭和四一年一月一日における指数との割合〇・八九四を右の復成原価に乗じて三一九二万五一八七円を算出し、千円未満を四捨五入して復成原価を三一九二万五〇〇〇円と認定した。そして、昭和四一年一月一日現在の復成原価につき、店舗と一号倉庫の各敷地の面積比に応じて按分し、各敷地の復成原価を算出した。

(2) 店舗について

店舗の復成原価の算出は、再調達原価算定の方法によったものである。店舗は昭和三五年三月に一八五〇万円で建築されたものを多三郎商店が昭和三六年三月に一二二七万二一一五円で買受け、その後昭和三八年一二月に二五万七六五八円で内部施設が改造され、昭和三九年三月に一四万二五五八円で食堂施設が増設されたものである。そこで昭和三九年七月一日現在の価格に修正するために、物価指数及び賃金指数を基礎資料として算出した指数一・三七、一・〇七、一・〇〇を順次右建築価格、内部施設改造額、食堂増設額に乗じて、その合計二五七六万三二五二円を得、次に平均的評価時点である昭和四一年一月一日当時の価格に修正するために、右合計額に右と同じ方法で求めた指数一・〇六を乗じて二七三〇万九〇四七円を得、千円未満を四捨五入して二七三〇万九〇〇〇円を復成原価と認定した。

(3) その他の土地、建物について

その他の物件については、多三郎商店は次表の年月日に同表の価格で各物件を取得したものであるところ、右取得年月日はいずれも、原処分の調査の対象とした昭和三九年二月一日から昭和四二年六月三〇日までの間に存在し、かつ平均的評価時点である昭和四一年一月一日の適用期間である昭和四〇年一月一日から昭和四一年一二月三一日までの間に存在することから、取得価格をもってそのまま復成原価と認定した。

(二) 物件別年額賃料の算出

右により求めた復成原価に対し、土地については八パーセント、建物について一〇パーセントの期待利回りを乗じて得た額に、土地、建物の固定資産税、建物の減価償却費、修繕費、損害保険料の必要諸経費を加算して、各契約時点における各物件の年額賃料を別表(一)の合計金額欄のとおり算出した。

(三) 使用割合の算出

店舗については昭和三九年七月一日から昭和三九年一二月三一日まで、昭和四〇年一月一日から昭和四一年一二月三一日まで、昭和四二年一月一日以降の三つの時期に分け、その他の物件については時期を分けないで、原告を含む各賃借人の専用坪数を別表(八)ないし(一一)のとおり抽出した。次いで、各抽出専用坪数を基本として店舗等の各賃借人の使用割合を次のとおり計算した。なお、各物件の総坪数(但し、店舗は鉄筋コンクリート造部分のみ)は、右表に示すとおりである。

(1) 店舗については別表(二)ないし(四)のとおり、先ず専用部分につき、別表(八)ないし(一〇)に従って集計した奥行間数、階層ごとの専用坪数(各社の専用坪数調欄)に、使用効率を勘案した指数を乗じた効率坪数(小計欄)を求め、次に共用部分につき、効率坪数を基礎にして得た専用割合に共用部分合計面積を乗じて共用坪数(共用坪数欄)を求め、効率坪数と共用坪数との合計(使用面積計欄)を基礎にして使用割合を求めた。

(2) 倉庫については単純に専用坪数の構成比により別表(五)のとおり求めた。

(3) 車庫については均等按分により求めた。

(四) 賃借人別年額賃料の算出

(二)により求めた各契約時の年額賃料を、(三)により求めた各賃借人の使用割合に応じて按分計算し、別表(六)のとおり各賃借人の各契約時ごとの年額賃料を算出した。

(五) 認定賃料の算出

(四)により求めた額を基に、原告の事業年度に対応させて、正味賃料を別表(七)のとおり算出した。これが本件更正処分の基礎となった正常賃料である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は認める。

2  同2、3のうち、被告主張の経緯によれば計算上その主張の金額になることは認めるが、被告の認定した賃料額が適正であるとの主張は争う。

3  同4のうち、(一)につき、被告の主張する復成原価の数値が合理的であることは争う。(1)の敷地は被告主張の一〇筆の外に、鶴岡市日吉町一一番四〇宅地〇・八一坪を含むもので一一筆である。(2)の店舗が被告主張の価格で建築されたことは知らないが、その後多三郎商店が被告主張の時期にその価格で取得して改造したことは認める。(1)、(2)の店舗及びその敷地につき、結果としての数値が合理的でないのみならず、その方法についても、昭和三九年七月一日とその六か月後の昭和四〇年一月一日の時点とで評価を異にしながら、その二年後の昭和四二年一月一日に評価換をしていないのは不合理である。(3)その他の土地、建物につき、一号、二号、三号各倉庫及び車庫の取得年月日及び取得価格が被告主張のとおりであることは認めるが、右取得価格をそのまま復成原価とすることは誤りである。けだし、右取得価格は多三郎商店備付の固定資産台帳上の簿価をもってしたものであるところ、右帳簿価格は現実の取得価格よりも著しく低額となっているからである。即ち、右各物件は、建築取得する際、既存の建物を解体して得た古材や、密接な関係を有する取引相手から廉価で買受けた材料を用い、人夫として多三郎商店や別表(五)記載の関係五社の従業員を使用し、設計料も電話加入権を譲渡する形で支払うなどの方法を用いたために、通常の方法に比して著しく低額で取得できたものであって、もしも通常の方法によって建築取得していたならば、その取得価格は、一号倉庫が五二〇万円、二号倉庫が一五〇万円、三号倉庫(物置)が一〇三万円、三号倉庫(車庫)が二六〇万円を各下らないものであり、従って被告主張の計算方法によっても復成原価は右各価格を下らないものとして計算すべきである。

(二)ないし(五)につき、各物件の総坪数(別表(八)ないし(一一)に表示した部分)が被告主張のとおりであることは認めるが(但し、店舗は、鉄筋コンクリート造部分の外に木造部分を含むものである)、被告の主張する賃借面積は昭和三九年七月一日、昭和四〇年一月一日、昭和四二年一月一日の三つの時点についてであって、賃借面積の変動を正確に把握していないばかりか、面積それ自体も後述のように過少に認定しており、また使用割合、年額賃料額、事業年度内の賃料額も、いずれも事実に反し、あるいは不合理な数値である。

原告の支払った賃料は、貸主である多三郎商店に対して依頼した、集金、倉庫商品の管理、広告宣伝、総務等の業務費や水道光熱費からなる共同業務管理費を加算したものであるから、賃料の認定に際し、正味賃料のみならず、右管理費を含めて判断すべきである。原告は次の方法によって賃料を算出して支払ったものであり、原告の支払賃料は相当な額である。

原告が賃借していた店舗等の物件の所在位置図は別表(一二)のとおりである。賃借面積は、昭和四一年一月一日から同四二年三月三一日まで、店舗木造部分二階の五坪部分をも賃借していたものであり、この点を除いて被告主張のとおりである。右賃借面積に等級区分別の賃料を乗じて、第一、第二期分の賃料を次のとおり算出した。

五  本件更正処分及び賦課処分の違法性に関する原告の主張

1  被告は、正常賃料なるものが存在することを前提とし、これを三の第2項に示す表の正常賃料欄記載の金額であると認定した旨主張するが、自由主義経済体制下の我国では、賃料も私人間の自由意思により決定されるべきものであって、右賃料が公序良俗に反して無効とされる場合の外は正当性を有し、正常賃料なる概念が存在する余地はないし、国家権力の一端をなす被告が決しうるものではない。しかも、私的自治、契約の自由の原則も、自由競争市場が健全な状態では神の見えざる手によって価格が形成されるという予定調和論を基調に、合理的価格、即ち正常賃料も求めえたかも知れないが、自由競争が衰退し寡占的市場構造となった現代の高度に発達した資本主義体制下では、独占価格、管理価格が予定調和論を基調とした価格にとって代ったのであり、このような体制下における価格は存在するもの全てが合理的であるという性質を有し、従って正常賃料なるものはありえず、被告の主張はその前提を欠き、成立しえない。また、仮に正常賃料が妥当するとしても、本件支払賃料額は合理的な賃料額の範囲内にあり、このことは、所得税法第五九条第一項第二号にいう「著しく低い価額による譲渡」の趣旨に関し、同法施行令第一六九条は時価の二分の一をいう旨規定していることからも明らかである。よって本件支払賃料は相当な額であって、被告が右賃料額と異なる賃料額を正常賃料なる用語のもとに勝手に認定することは違法である。

2  被告は、原告が支払った賃料のうち、三の第2項に示す表の寄付金欄記載の金額は法人税法第三七条第五項所定の寄付金に該当する旨主張するが、これは右条項の解釈を誤ったものである。寄付金とは「事業に直接関係のない旨に対し」金銭、物品等の提供をしたことを要件とするものであり、このことは同条第四項の「収益事業以外の事業のために支出した金額」を寄付金とする旨の規定や、同条第五項の「広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきもの」を寄付金としない旨の規定からも明らかであるが、本件の場合、賃料は賃借目的物の対価として支払われ、かつ、同目的物は原告の事業活動に必須のものであるから、右要件に該当しない。また寄付金とは「対価の授受なく無償で」提供されたことを要件とするが、本件では右のとおり対価として支払われたのであるから、仮に支払賃料が過大であっても対価として支払われた以上、過大部分も対価性を失わず、寄付金には該当しない。また右寄付金欄記載の金額は同法第三七条第五項所定の寄付金には該当しない。同条項は「贈与又は無償の供与」と規定しており、譲渡又は供与の対価と当時の価格に差がある場合を定めたものではないのであって、このことは、わざわざ同条第六項の規定が設けられていることからも明らかである。法人税法は、譲渡するときに価値が顕在化したものとして、これを益金としてとらえているのであり(同法第二二条第二項)、時価にいたらない低額譲渡の場合は時価との差額を寄付金として課税しているのであるから(同法第三七条第六項)。これに対し対価が高額な場合は、その対価を収益として認識すればよいのであって、その差を問題とする必要はない。

六  原告の違法性の主張に対する被告の反論

1  原告の主張する独占価格、管理価格は、過去にたまたま生起した例外的事象をとらえての極論であって、我国の現代の価格が需要と供給とからなる自由競争市場の機構によって形成される基盤に変りはなく、また正常賃料なるものは契約自由の原則が妥当する法領域では成立し得ないとの主張は、税法の考え方を無視したものであって、合理的価格はなお存在し、算出可能なものである。

2  法人税法上の寄付金とは、寄付金、きょ出金、見舞金、その他いずれの名義をもってするかを問わず、法人がなした金銭その他の資産または経済的な利益の贈与または無償の供与をいうのであって(法人税法第三七条第五項、第六項参照)、同法に規定する寄付金は通常の寄付金概念よりはるかに広範囲のものであり、第三者に対して無償で提供される経済的価値の全てを指称するものである。そして寄付金の解釈、適用においても、単に当事者が契約自由の原則に従って作出した賃料という法形式にとらわれることなく、経済的実質的に観察して判断すべきである。例えば高額譲受の場合、経済的実質的に観ると、過大部分は本来の意味の対価とはいえず、事業に関係なく相手方に金銭を贈与したことになり、このような場合は同法第三七条第六項をもち出すまでもなく、同条第五項所定の寄付金に当るのである。また営利法人においては、それが利潤追求の組織体である限り、等価交換の原則に支配されているのが通常であるが、その取引の相手方法人と密接な関係を有する場合は、往々にして経済性を無視した恣意的な契約による取引により税負担の軽減が行なわれる事例があり、これを放置していては税負担の公平を著しく欠くことになるのであって、本件がまさにこれに該当する。即ち、前記関係五社は多三郎商店の資本系列下にあるところ(いずれも同商店が発行済株式総数の二分の一以上を有している)、多三郎商店は赤字基調の会社であって系列五社から過大な賃料収入を得てもなお法人税は無か僅少であるところから、系列五社の賃料を過大に算出して支払うことにより、総体として法人税を軽減せしめようとしたものである。従って、一般経済人が通常取引すると認められる適正な額、即ち正常賃料は事業に関係ある支出であるといえるが、過大部分は事業に関係なく賃料に名をかりて贈与されたものというべきである。因みに、寄付金と同じ考え方は、過大な役員報酬の損金不算入(同法第三四条)、過大な役員退職金給付の損金不算入(同法第三六条)などにも表われている。よって、原告の支払賃料が正当な対価として支払われたとみるべき特別な合理的事情の認められない本件では、正常賃料を超える部分は寄付金と認定すべきことになる。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第四二号証、第四三号証の一、二、第四四ないし第五〇号証

2  乙第一二号証、第一三号証の一ないし六、第一八、第二四、第二七号証、第二八、第二九号証の各一、二、第三〇号証、第三一、第三二号証の各一、二、第三三号証の成立はいずれも不知。その余の乙号各証の成立はいずれも認める。

二  被告

1  乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証、第四号証の一ないし三、第五号証、第六、第七号証の各一ないし四、第八号証の一ないし三、第九号証の一ないし五、第一〇ないし第一二号証、第一三号証の一ないし六、第一四号証の一ないし一五、第一五号証、第一六号証の一ないし四、第一七ないし第二五号証、第二六号証の一、二、第二七号証、第二八、第二九号証の各一、二、第三〇号証、第三一、第三二号証の各一、二、第三三、第三四号証、第三五号証の一、二、第三六号証の一ないし四、第三七号証の一ないし五、第三八、第三九号証の各一ないし三、第四〇ないし第五〇号証、第五一号証の一、二、第五二ないし第五七号証の各一ないし三、第五八号証の一ないし五

2  甲第一号証、第二六ないし第二九号証、第三三、第三七、第四一号証、第四三号証の二、第四九号証の成立はいずれも認める。第三一、第三五、第三九号証、第四三号証の一のうちいずれも「その他必要な事項」欄の成立は否認し、添付図面の成立は不知であるが、その余の部分の成立は認める。その余の甲号各証の成立はいずれも不知。

理由

第一当事者間に争いのない事実

本件確定申告にはじまり、原処分、異議申立及びそれに対する棄却決定、審査請求及びそれに対する原処分一部取消しの裁決に至るまでの経緯(請求原因1ないし3の事実)、原告が多三郎商店から店舗等の一部を賃借して第一期において一九五万円、第二期において二〇四万円を各支払ったこと(被告の主張1の事実)、被告が右各金額のうち、第一期につき、共同業務管理費は三六万円、その余の正味賃料は一四一万円が相当であると認めて、その差額一八万円は法人税法第三七条第五項所定の寄付金と認定し、同条第二項の規定によって一七万五七一一円につき損金算入を否認し、事業税額一万六六八〇円を損金に加算して、所得金額を二四万〇五九三円、法人税額を七万二六〇〇円と認定し、同様に、第二期につき、共同業務管理費は三七万五〇〇〇円、正味賃料は一四二万円が相当であると認めて、その差額二四万五〇〇〇円は寄付金と認定し、二四万〇五一九円につき損金算入を否認し、事業税額一万四四〇〇円を損金に加算して、所得金額を二五万六六三二円、法人税額を六万八九〇〇円と認定したうえ、国税通則法第二四条により更正処分し、同法第六五条により、第二期につき三一〇〇円の過少申告加算税を賦課したこと(被告の主張2、3の事実、但し、いずれも裁決により一部取消された後のもの)、並びに被告の計算方法によれば右数額のとおりになることは当事者間に争いがない。

第二原処分について

そこで、先ず原処分がなされた経緯及び原処分が採った方法について検討するに、いずれも成立に争いのない甲第二八号証、乙第二号証の一ないし三、第三号証、第四号証の一ないし三、第五号証、第六号証の一ないし四、第一六号証の一ないし四、第一七号証、第二一号証、第三四号証、第三五号証の一、二、第三六号証の一ないし四、第三七号証の一ないし五、第三八、第三九号証の各一ないし三、甲第二七、第四九、乙第四〇、第四一各号証(但し、後記措信しない部分を除く)、乙第四四号証、同号証により真正に成立したものと認められる乙第二七号証、弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第二八、第二九号証の各一、二、第三〇号証、第三一、第三二号証の各一、二、第三三号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

一  原処分庁である被告は、原告が昭和四二年五月一日に確定申告をした直後の同年六月から翌四三年六月までの約一年間、右申告の所得計算の基礎となった支払賃料額の是否について調査したが、当時関係五社の管理業務を主たる業務としていた多三郎商店がいずれも右五社の発行済株式総数の二分の一以上を有し、多三郎商店の代表取締役阿部多三郎は訴外阿部広吉(以下「広吉」という。)の父で、広吉は専務取締役であり、右五社のうち、阿部機工の代表取締役阿部喜代女は広吉の母で、広吉は専務取締役であり、阿部金属の代表取締役は広吉であり、阿部かなものの代表取締役阿部チエは広吉の妻で、広吉は取締役であり、阿部建装の代表取締役は広吉であり、阿部物産の代表取締役は広吉の父で、広吉は専務取締役であって、多三郎商店と関係五社は極めて密接な関係にあったことから、調査に当っては先ず多三郎商店及び関係五社の代表格である広吉から説明を受けることにした。その結果、多三郎商店と関係五社とは昭和三九年七月一日に賃貸借契約を締結したが、賃借面積及び賃料の決定については、締約の直前に開催された各社の常務取締役によって構成される常務会の席上で、広吉が原案を黒板に記載して説明し、これに基づいて調査されたうえ決定され、その後も改訂の都度常務会で協議して決定されたが、当初の契約時においても、またその後の改訂時においても、契約書や議事録といった書類は何も作成されず、常務会に出席した何人かが簡単なメモを作成した程度で、賃料算定の基礎となるべき資料が殆んどないことが判明し、被告職員の求めに対しても、何らの資料をも提出することができなかった。

二  そこで被告は、自ら資料を集収したうえ、賃料鑑定方式の一つである積算式評価法によって賃料を算出したが、その方法は次のとおりである。

1  復成原価の算出

賃貸借契約の対象物件である店舗、一号倉庫、二号倉庫、三号倉庫、車庫の各建物及び材料置場、並びに右各建物の敷地ごとに、評価時点を昭和三九年七月一日と昭和四一年一月一日に特定して、復成原価を求めた。

(一) 先ず、右各物件の取得年月日、坪数、取得価格(土地は買受価格、建物は建築取得価格)は次表のとおりであった。

なお、右数値のうち建物の坪数は、後記のとおり、広吉が立会いのうえ鶴岡税務署職員が作成した図面(前掲乙第四号証の一ないし三)に基づくものである。

(二) 次いで、復成原価を次のとおり算出した。

(1) 店舗及び一号倉庫の敷地は取引事例比較法により算出した。即ち、被告は関係五社全ての申告について調査したものであるが、五社の事業年度の最初が昭和三九年二月であり最後が昭和四二年六月であったことから、全期間のほぼ中間時点である昭和四一年一月一日を平均的評価時点と特定したうえ、いずれも右期間内である昭和四〇年一月一日から昭和昭和四一年六月二九日の間に取引され、対象土地と同様に鶴岡駅からほぼ南方に向って延び、市内商店街に至る幹線道路(国道一一二号線)に沿い、最も遠いもので対象土地から直線距離にして約九〇〇メートル、最も近いもので約二四〇メートルの位置に存する四件の売買実例を抽出して、その取引価格を調査して次表(1)のとおり求め、右価格に対し売買に影響を与えたと見られる特殊な取引要因を排除することにより価格修正し、各取引時点と評価時点との時間的経過による変動を全国市街地価格指数を用いて修正し、取引実例地と対象土地との場所的格差を修正した坪当り単価を次表(2)のとおり求め、このようにして修正された四実例の坪単価を単純平均して、坪当り単価を八万六一四〇円と算出し、評価の安全性を考慮して右単価の一〇パーセントを加算して九万四七五四円とし、千円未満を四捨五入して九万五〇〇〇円を求め、これに三七五・九坪を乗じて三五七一万〇五〇〇円を算出し、次いで期間計算の期首である昭和三九年七月一日時点の価格につき、右指数を参考にして期首時点の指数を六七〇、評価時点の指数を七四九と各算定し、両時点における右指数の割合〇・八九四を右価格に乗じて三一九二万五一八七円を求め、端数については右同様に処理して三一九二万五〇〇〇円を算出した。そして、昭和四一年一月一日時点の復成原価につき、店舗の敷地を約二八五坪、一号倉庫の敷地を約九〇坪として、各敷地の面積に応じて按分し、各敷地の復成原価を算出した。

表 (1) 売買実例の取引価格

表 (2) 諸要因修正後の坪当り単価

なお、(D)の数値につき、取引要因として次のものを考え、各要因が取引価格に与える増減率を次のとおりとした。

これを四件の実例についてみると、次のとおりとなる。

(F)の数値につき、財団法人日本不動産研究所発行の「全国市街地価格指数」のうち、第四表「六大都市を除く地域別市街地価格推移指数表(商業地の欄)」により、対象土地の評価時点(昭和四一年一月一日)における指数と実例土地の売買時点における指数とを算出したうえ、前者に対する後者の比率を次のとおり求めた。

(H)の数値につき、仙台国税局発行の「昭和四一年分相続税財産評価基準(山形県分)」により、右評価時点における対象土地及び実例土地の相続税評価額を求め、対象土地の評価額の実例土地の各評価額に対する比率を次のとおり算出した。

(2) 店舗は、一般建物についてはその設計内容、使用目的建築業者の規模等により価格の差が大きすぎて、取引事例法によることは事実上不可能であることから、再調達価格算定の方法で算出した。即ち、(1)に記載したと同趣旨から平均的評価時点を昭和四一年一月一日に特定したうえ、対象建物が(一)で述べた時期に取得されたことから、先ず昭和三九年七月一日時点の価格に修正するために、本件となる店舗、内部施設、食堂施設の(一)で述べた各取得価格に、建材費につき物価指数、人件費につき賃金指数を基に算出した指数一・三七、一・〇七、一・〇〇を順次乗じてこれを合計し、復成原価二五七六万三二五二円を求め、次に昭和四一年一月一日時点の価格に修正するために、同様に算出した指数一・〇六を右合計額に乗じて二七三〇万九〇四七円を得、千円未満を四捨五入して復成原価二七三〇万九〇〇〇円を算出した。

(3) その他の土地、建物は1で述べた時期に取得したものであるところ、右取得時期はいずれも、被告が調査の対象とした昭和三九年二月から昭和四二年六月までの間に存在し、かつ、平均的評価時点である昭和四一年一月一日の適用期間である昭和四〇年一月一日から昭和四一年一二月三一日までの間に存在することから、取得価格をもってそのまま復成原価とした。

2  物件別年額賃料の算出

前項によって求めた復成原価に対し、関係五社の事業年度ごとに、A(後記4で示す表の上欄の年度)、B(同中欄の年度)、C(同下欄の年度)の時期に区分したうえ、昭和三九年七月一日時点の復成原価はAに、同四一年一月一日時点の復成原価はB、Cに各適用して、土地については六パーセントを基本として抽象的必要経費分の二パーセントを加算した八パーセントを期待利回りとし、建物については土地についての右八パーセントを基本としてこれに空室補償、維持管理費等から成る抽象的必要経費分として二パーセントを加算した一〇パーセントを期待利回りとし、これらの期待利回りを乗じて得た額に、店舗は減価償却費、損害保険料、修繕費、公租公課を、その他の建物は減価償却費を各加算して、各物件の年額賃料を次表のとおり算出した。

なお、イないしヘの記号は次のものを意味する。

イ 敷地の期待利回り

ロ 建物の期待利回り

ハ 建物の減価償却費

ニ 建物の損害保険料

ホ 建物の修繕費

ヘ 土地建物の固定資産税

3  使用割合の算出

鶴岡税務署職員は関係五社の使用面積を確定するため広吉に対して資料の提出を求めたところ、資料となるべき書類が存在しなかったことから広吉は昭和四二年六月、当時の建物についての各賃借人の賃借部分を略記した現況メモ図を作成して提出したが、該メモ図には賃借面積の記載がなかったので、同署職員は広吉に現場での立会いを求めたうえ、賃借部分ごとの坪数を求めて図面を作成した。そしてその際、被告職員は昭和三九年二月から昭和四二年六月までの間の賃料をまとめて算出するので、各賃借人の賃借部分及び坪数の変動を示すよう求めたが、変動を詳らかにする資料が存しないので右期間全てにつき現況に従って計算し適正な賃料を算定して欲しい旨の広吉の申立てにより、やむを得ず変動は存しなかったものとして、昭和四二年六月の調査時点を基礎に専用面積を算出した。次いで、店舗については、道路からの距離に従って利用価値が減少することから、専用坪数に使用効率を乗じて得た数値に従って共用部分を按分配分し、店舗以外の物件については単純に専用坪数の構成比により、各賃借人の使用割合を次表のとおり算出した。

4  賃借人別賃料の算出

第2項で求めた物件別年額賃料を関係五社の事業年度に対応させたうえ、別項で求めた使用割合を乗じて五社の事業年度ごとの賃料を次のとおり算出した。なおその際、多三郎商店が自己所有不動産をもって各社のために物上保証した見返りとして差し入れた保証金の金利分を控除し、(但し、保証金金利を控除した点は後に裁決により訂正された。)また、業務管理費については、すでに前記のとおり抽象的必要経費として二パーセント上積みしているとの見解の下に、別途考慮はしなかった。

三  右の算出結果に基づいて、被告は原処分を行なったのである。

以上のとおり認められ、前掲甲第二七、第四九、乙第四〇、第四一各号証中、右認定に反する部分は措信できない。また前掲乙第二号証の二、三の記載中、店舗の敷地期待利回り額二一六万八〇八〇円とあるのは二一六万八〇八二円の一号倉庫の減価償却費一〇万一一三五円とあるのは一〇万一〇二八円の、前掲乙第二号証の二の記載中、阿部かなものの事業年度昭和四〇年三月から昭和四一年二月とあるのは、昭和四〇年四月から昭和四一年三月までの、前掲乙第二号証の一の記載中、阿部建装の事業年度昭和三九年六月から昭和四〇年五月とあるのは昭和三九年七月から昭和四〇年五月までの、前掲乙第二号証の三の記載中店舗の評価額二七一〇万一〇二五円とあるのは二七三〇万九〇〇〇円の、金利の算定額二七一万〇一〇二円とあるのは二七三万〇九〇〇円の、それぞれ誤記と認められるが、これらの誤記は以上の認定を左右するものではなく、他に以上の認定を左右する証拠はない。

第三裁決について

次に、裁決が採った方法について検討するに、前掲乙第二号証の一ないし三、第三号証、第四号証の一ないし三、第五号証、第六号証の一ないし四、甲第二七、第四九、乙第四〇、第四一号各証(但し、後記措信しない部分を除く)、いずれも成立に争いのない乙第七号証の一ないし四、第八号証の一ないし三、第九号証の一ないし五、第一〇、第一一号証、第二二、第二三号証、同両号証により真正に成立したものと認められる乙第一二号証、第一三号証の一ないし六並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

一  原告は原処分に対し異議申立をし、これに対する棄却決定を経て、昭和四三年一一月二五日仙台国税局長に対して審査請求をしたところ、仙台国税局の協議官は、その直後の昭和四三年一二月上旬から昭和四五年当初までの約一年間、殆んど広吉から説明を受けて調査をしたが、広吉は、右調査も終局に近づいた昭和四四年一一月一七日、協議官に対し、原処分は使用坪数が相違しているので訂正して欲しい旨、また原処分は認めていないが支払賃料の中には業務管理費が含まれているのでそれを認めて欲しい旨、更に正常賃料の計算方法については、右業務管理費の点及び右使用坪数の点を除き原処分庁の処分に異議はない旨陳述した。

二  そこで、協議官は右不服のある二点を中心に次のとおりの方法で賃料を算出した。

1  復成原価及び物件別年額賃料の算出

協議官は、原処分庁が算出した復成原価及び物件別年額賃料額について検討した結果、若干高額に失するきらいはあったが、原処分庁の算出した数額の方が原告に有利であるところから、該数額をもってそのまま認定することとし、但し二号倉庫敷地については、原処分庁が一七〇坪として算出したのに対して、二号倉庫の総坪数である四〇坪分であると認定し、従ってその復成原価を取得価額に一七〇分の四〇を乗じた一三二万一四五〇円に減縮して認定し、また、店舗の年額賃料につき、第二の二2に示す表のうち、A欄の項目ハに三八六、四四〇円とあるのを三九四、一七八円と計算の過誤を訂正し、項目ニ、ホの実額を一部訂正して認定した。そして、原処分庁の調査時はもちろん、仙台国税局の協議官が調査に着手した昭和四三年一二月三日に至っても使用坪数を明らかにする資料は存在しなかったところ、昭和四三年一二月一二日になってやっと広吉が、建物についての各賃借人の賃借部分と坪数を表示した図面及び各賃借人の正味賃料と業務管理費の算出根基を表示した地代家賃算出表(乙第七、第八号証の各一ないし三、第九号証の一ないし五)を作成して提出したが、右図面及び算出表は昭和三九年七月一日から昭和三九年一二月三一日まで、昭和四〇年一月一日から昭和四一年一二月三一日まで及び昭和四二年一月一日以降の三つの期間に区分して記載されていたことから、協議官は原処分庁が算出した復成原価及び物件別年額賃料のうち、昭和三九年七月一日を評価時点としたものは昭和三九年七月一日から昭和三九年一二月三一日までの期間分に、昭和四一年一月一日を評価時点としたものは昭和四〇年一月一日から昭和四一年一二月三一日までの期間分及び昭和四二年一月一日以降の期間分に各適用することにした。このようにして得た各物件の復成原価及び物件別年額賃料額は別表(一)記載のとおりである。

2  賃借人別使用割合の算出

広吉が協議官に提出した図面は、店舗については前項記載の三つの期間に区分し、その他の建物は期間を区分しないで表示されていたものであるところ、広吉は、原処分庁に提出済の現況メモ図(前掲乙第六号証の一ないし三)は不正確であって右図面の方が正確である旨、また使用部分及び坪数の変動を証明する書類は何も存せず、しかも変動は僅少であって各賃借人の使用坪数に大きな相違は存しない旨述べたことから、協議官はやむを得ず右図面の記載に従って使用坪数を算定したが、その際原処分庁が賃借物件として認定した建物については、ほぼ右図面どおりに(但し、後記木造部分の点を除く)坪数を算出し、右図面に記載されている旧一号倉庫については、多三郎商店の会計帳簿、決算書類に記載されていなかったため、算定の対象とせず、但し一号倉庫建築前は仮倉庫があり、これを共同使用していたものと認め、一号倉庫が建築された昭和四〇年七月三一日以前も同年度中は、同一倉庫が存在したものとして、また昭和三九年度中は、敷地全体を同一割合で使用していたものとして算出し、また右図面中、店舗に接続して木造部分の記載があるが、この部分は、広吉が原処分庁に提出した現況メモには一号倉庫の一部として記載されており、原処分もこれに従って使用坪数を算出したものであるところ、協議官は店舗、一号倉庫いずれの部分としても算定の対象とはしなかった

このようにして算定した各賃借人の賃借専用部分及び専用坪数は別表(八)ないし(一一)のとおりである。次いで専用坪数を基本として店舗等の各賃借人の使用割合を次のとおり算出し、原処分を訂正した。

(1) 店舗については、別表(二)ないし(四)のとおり、先ず別表(八)ないし(一〇)記載の数値から集計した奥行間数及び階層ごとの専用坪数を出し(別表(二)ないし(四)中、各社の専用坪数調欄)これに商業地区の使用効率を勘案した奥行逓減の指数を乗じた坪数(同表中、小計欄)を求め、次に共用部分につき、効率坪数を基礎にして得た専用割合に共同部分合計面積を乗じて共用坪数(同表中、共用坪数欄)を求め、効率坪数と共用坪数との合計(同表中、使用面積計欄)を基礎にして使用割合を求めた。

(2) 一号倉庫、二号倉庫、三号倉庫については単純に専用坪数の構成比により、別表(五)のとおり使用割合を求めた。

(3) 車庫については均等按分により使用割合を求めた。

3  賃借人別年額賃料の算出

第1項で求めた物件別年額賃料に、前項で求めた使用割合を乗じて、前記の三つの期間ごとの賃借人別年額賃料を別表(六)のとおり算出し、原処分を訂正した。なお、一号倉庫は前記のとおり昭和四〇年七月三一日に建築取得したが、その以前から同一場所に存在した仮倉庫等を使用していたので、専用坪数は一号倉庫のそれと同一としたうえ、昭和四〇年一月一日の時点から一号倉庫を賃借しているものとして算出し、二号倉庫、三号倉庫及び車庫は前記のとおりそれぞれ昭和四一年一二月一六日、同年一二月二八日及び同年一一月三〇日に各建築取得されたことから、昭和四二年一月一日の時点から賃借しているものとして算出し、但し三号倉庫の敷地は同倉庫建築以前から使用していたので、地代として計算した賃料に同倉庫と同一の使用割合を乗じて昭和四〇年一月一日の時点から算出した。

4  事業年度別賃料の算出

原処分庁において賃料算出の際控除した保証金金利は賃貸借に無関係であることから控除計算しないこととしたうえ、前項で求めた額を基礎として、原告の事業年度に対応させ、一万円未満を切り上げて、正味賃料を別表(七)のとおり算出して原処分を訂正した。

5  業務管理費の算出

広吉は、関係五社が多三郎商店に対し、広告宣伝費、水道光熱費、倉庫管理費、総務事務費等から成る業務管理費を賃料の一部として支払っていると主張し、同人が前記地代家賃算出表を提出して申立てた際の業務管理費の一か月当りの数額は次表のとおりであったところ、協議官は、該数額を大むね妥当と判断して右申立てのとおり認めることとし、関係五社の事業年度に対応させたうえ、被告が「被告の主張2」で主張するとおりの金額を算出して原処分を訂正した。

三  右のような計算過程を経て原処分の数額が訂正され、裁決がなされた。

以上のとおり認められ、前掲甲第二七、第四九、乙第四〇、第四一各号証中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右する証拠はない。

第四原処分と裁決の算出方法及び算出結果の相当性並びに算出数額の妥当性について

以下、被告のなした原処分及び後にこれを一部取消した裁決の双方について、その相当性、妥当性を検討する。

一  積算式評価法を用いたことについて

被告は正味賃料の算出方法として積算式評価法を用い、裁決においてもそのまま是認されたが、右の方法は、成立に争いのない甲第一号証に照らしても、賃料算定の一方法として一般的に是認されているものと認められ、相当な方法である。

二  復成原価の算出について

1  被告は評価時点を昭和四一年一月一日に特定したのであるが、これは調査した関係五社の事業年度の始期の最初(昭和三九年二月)と終期の最後(同四二年六月)とのほぼ中間時点をとったものであり、かつ対象とした期間の期首(昭和三九年七月)の年度については価格の上昇率を考慮した修正をしたものであって、この方法は何ら不当とはいえない(ちなみに前掲甲第一号証によると、同鑑定は評価時点を昭和四〇年六月三〇日及び同四二年六月三〇日とするが、その適用期間をみると、前者につき昭和三九年七月一日から同四一年六月三〇日とし、後者につき昭和四一年七月一日から同四三年六月三〇日とするもので、前者は被告の用いた昭和三九年七月一日の時点と一致し、後者は同四一年一月一日の時点と六か月相違するにすぎない)。次に復成原価算出の方法について考えるに、(一)店舗及び一号倉庫敷地につき取引事例比較法により抽出した四件の売買実例から取引価額を認定した方法は相当であり、右取引価額を修正した方法及び修正の際に用いた数値は前掲乙第三六号証の一ないし四、第三七号証の一ないし五に照らして適正なものであるといえ、かつその結果として得られた価額も後記のとおり、おおむね妥当なものである。(二)店舗につき再調達価格算定の方法を用いたことは、相当であり(ちなみに前掲甲第一号証においても同様の方法が用いられている)、取得価額を修正するにあたり用いた指数も前掲乙第三八、第三九号証の各一ないし三に照らして相当である。更に(三)その他の土地、建物につき、取得価格をもって復成原価としたことは、これらの取得時期が昭和四〇年六月ないし昭和四一年一二月であることを考慮するならば、その方法において相当であり、現実の取得額は第二の二1(一)の表記載のとおりである。なお、二号倉庫、三号倉庫、車庫の右認定額は、後記八で示す鑑定額に対比し、著しく低額であるが、前掲甲第四九、乙第四一各号証とこれにより真正に成立したものと認められる甲第三〇、第三四、第三八、第四二号証によると、該各物件の鑑定額は設計書をも参考資料として再調達原価を求めたうえ復成原価を算出したものであるところ、設計書に見積額として記載された数額は現実の建築取得価額よりもはるかに高額であって、そのために鑑定額が算出額に比して高額になったものと認められる。しかしながら復成原価算出にあたっては、予想される見積額でなく、現実の取得価格を基礎にして算出すべきであるから、右認定額の相当性の判断を左右するものではない。そして、以上のく第二の二1(二)記載の算出過程に過誤は存しない。

2  右原処分庁の認定額に対し二号倉庫敷地の復成原価について建物である二号倉庫の総坪数相当分に減額したこと、さらに、広吉の作成した図面及び算出表に記載した三つの時期に区分して復成原価を算出した方法には特段に不合理な個所はなく、右方法に基づいてなされた別表(一)記載の算出額には計算上の過誤はない。なお、店舗及び一号倉庫の面積につき、別表(一)には 三七五坪と表示されているが、前記のとおり、広吉が仙台国税局の調査の際協議団に提出した図面(前掲乙第九号証の五)には三七五・九坪と記載してあるので、該坪数をもって当該敷地の坪数と認めるのが相当で、現に別表(一)の価格は三七・九坪として計算されており、従って別表(一)の三七五坪は三七五・九坪の誤記である(原告は別表(一二)において三六二・〇九坪である旨主張する。)が、右は表示の過誤であって、価格に影響はない。また三号倉庫敷地につき、別表(一)には一三二坪と表示されているが、成立に争いのない乙第一四号証の一一ないし一四及び弁論の全趣旨によれば、原処分は阿部物産所有にかかる鶴岡市宝町八番四二号所在宅地一一七・七五平方メートル(三五・六二坪)と同所八番四三号所在宅地一五二・三三平方メートル(四六・〇八坪)の合計八一・七坪をもって三号倉庫の敷地と認定したものであり、右二筆の外、原告が別表(一二)において主張する同所八番一四号所在雑種地一九・九八坪と同所八番四一号所在雑種地二四坪については多三郎商店及び関係五社でない訴外人の所有であることから、敷地とは認定せず、前二者の取得価額をもって復成原価とし、裁決においてもこれを踏襲したものであると認められ(右の判断は相当として是認できる。)、従って別表(一)の一三二坪は八一・七坪の誤記であるが、右は表示の過誤にすぎず、価格に影響はない。

三  物件別年額賃料の算出について

被告は、土地については八パーセント、建物については一〇パーセントの各期待利回り率を用い、裁決においてもこれが踏襲されているが、前掲甲第一号証によれば、同鑑定においても同一の率が用いられていることに照してみても、何ら不合理とは認められず、第二の二2記載の算出過程に過誤は存しない。また裁決において、店舗の年額賃料の算出につき一部の項目の額を訂正したうえ、別紙(一)記載のとおり物件別年額賃料を算出した過程及び算出結果に過誤は存しない。

四  使用割合の算出について

1  被告の算出方法及び結果は、原処分時の事情からすると、やむを得ないものであったといえるが、後に広吉の陳述に基づき、裁決によって一部訂正されたので、裁決について検討する。

2(一)  審査庁の算出方法のうち、旧一号倉庫の存在を認めなかった点については、別表(一二)によって原告の主張するとおりの該物件が存在したとの的確な資料がないので、やむを得ない措置であり、但し裁決においては、前記のとおり従前から一号倉庫と同一場所に仮倉庫が存したものとして、地代につき店舗と同一視して算出したものであるから、あながち不合理とはいえない。また、木造部分を算定の対象としなかったことについて見ると、広吉は、前記のとおり原処分庁に提出した現況メモの記載(該部分は一号倉庫の一部として記載されている。)は誤まりであって審査庁に提出した図面の記載(該部分は店舗の一部として記載されている。)が正確である旨陳述したが、成立に争いのない乙第三四号証によれば店舗の登記簿には附属建物としての木造部分の表示がなく、かつ右登記簿に表示された一階一六五・七五坪、二階一七二・四九坪の数値と、当事者間に争いのない現況店舗の鉄筋コンクリート造部分の面積である一階及び二階とも一七五坪の数値とを対比すれば、木造部分が店舗に含まれないことは明らかであり、さりとて、これが一号倉庫に含まれるとすることは、該倉庫が前記のとおり昭和四〇年七月三一日に建築されたにもかかわらず、広吉が審査庁に提出した図面には、すでに同三九年七月一日から存在した旨記載されていること及び前掲甲第四九、乙第四一各号証によって真正に成立したものと認められる甲第三二号証によると、一号倉庫の面積は一階が二六一・八八平方メートル(七九・二二坪)、二階が一八四・八九平方メートル(五五・九三坪)と記載されているのに、別表(一一)に記載された該倉庫の面積は、専用部分だけでも一階が八四坪、二階が五九坪にも達すること(この点は当事者間に争いがない。)等に照らすと木造部分が一号倉庫に含まれるとすることにも疑問があり、結局これがどの建物の一部に属するか及びその価格を認定するに足りる的確な証拠はない。しかしながら木造部分は面積が僅少であり、かつ木造であることから復成原価賃料ともに低額であると推認されるので、該部分を評価の対象にしなかったことにより算出価額に与える影響は極く僅かであると考えられる。

(二)  右を除くその余の物件の専用坪数につき、広吉の作成した図面どおりに専用坪数を認定したこと、店舗につき、右専用坪数を基礎にして奥行逓減の指数を乗じ、共用坪数及び使用割合を算出したこと、及び一号倉庫、二号倉庫についてはその使用割合を単純に専用坪数に応じて算出したことは、その算出の方法を含めて、いずれも相当と認められる。そして、以上の算出方法に基づく算出結果に過誤は存しない。

(三)  しかしながら、三号倉庫及び車庫については、前掲乙第三号証、第四号証の三、第六号証の四、第九号証の四、五、前掲甲第四九、乙第四一各号証により真正に成立したものと認められる甲第四〇、第四四号証並びに弁論の全趣旨によると、三号倉庫と車庫は接続した建物であって、別表(一一)の右側上段記載の「三号倉庫」の図面中には、車庫の部分も含まれていること、広吉が提出したメモに基づいて鶴岡税務署職員が作成した資料(前掲乙第三号証、第四号証の三)には、車庫は関係五社が均等に使用している旨記載されていたところ、広吉は協議官に提出した図面(前掲乙第九号証の四)においてこれを訂正し、三号倉庫と車庫とを合わせ別表(一一)右側上段記載のとおり使用割合を主張したものであることが認められ、このことは右資料及び図面を対照すれば容易に判別しえたはずである。審査庁としては右二つの建物を一括したうえ三号倉庫及び車庫の使用割合を算出すべきであって、車庫について均等按分したのは相当でないというべきであり、そうすると別表(五)のうち、三号倉庫の欄は、「三号倉庫及び車庫」と表示すべきであり、その結果、賃借人別年額賃料を記載した別表(六)のうち、三号倉庫及び車庫の該当欄を訂正すべきことは後記のとおりである。

五  賃借人別賃料の算出について

1  被告の算出方法及び算出結果は、後に裁決により一部訂正されたので、裁決について検討する。

2(一)  裁決において、三で認定した物件別年額賃料に四で認定した使用割合を乗じて賃借人別の年額賃料を算出したが、この方法自体には何ら不当な点はない。

(二)  しかしながら、前記のとおり三号倉庫及び車庫の使用割合を訂正すべきであるとした結果、賃借人別の年額賃料を示した別表(六)中、昭和四二年一月一日以降の期間における「三号倉庫」「車庫」欄を削除したうえ、これを次のとおりとすべきである。

(三)  なお別表(六)の算出結果のうち、昭和四〇年一月一日から同四一年一二月三一日までの期間における阿部金属の賃料のうちの店舗分一五三万三一九二円とあるのは一五三万三一八七円の過誤であり、同期間における材料置場の合計額二八万六八〇〇円とあるのは二八万六七九六円の誤記であり、以上の点を除く、その余の点につき計算上の過誤は存しない。

3  そこで、右不相当な部分及び過誤の存する部分を訂正すると、別表(六)の各「計」の欄の金額は、次表のとおりとなる。

六  事業年度別賃料の算出

裁決において保証金の金利分を控除したことは相当であり、原告の事業年度ごとの正味賃料額につき、審査庁の認定した方法によった場合の算出結果(別表(七))に過誤は存しない。しかしながら、三号倉庫及び車庫につき、別段2項に記載したとおり、相当と認められない点が存し、また計算上の過誤が存するのであるから、前段3項の表に示した数額に従って計算した場合、関係五社の事業年度別正味賃料は次表のとおりとなる。そこで右表に示した額と裁決によって算出した額とを比較検討するに、後者の方が高額なものはその差額が一万円ないし二万円であって、しかも納税会社に有利であるから問題なく、後者の方が低額なものは阿部建装の昭和四一年六月一日から昭和四二年五月三一までの期間分だけであるが、この差額も実質上二八七七円と僅少であって、しかも後に八の表(1)ないし(3)で示す数額を対照して判るとおり、正常賃料の厳密な数額を求めることは著しく困難であり、著しく経験則に反する場合でない限り、行政庁たる仙台国税局長の裁量に委ねられていると解すべきであるから、右のとおりの僅少差が存することをもって違法というべきでなく、右裁決額は相当というべきである。

七  業務管理費の算出について

裁決において審査庁は、広吉の主張を全部容れて業務管理費を認めたのであって、その算出方法はまことに相当と認められ、その算出結果に過誤は存しない。原告は本訴において右と異る額を主張し、その裏づけとして、甲第五、第九、第一五、第二〇、第二五号証を提出し、前掲甲第二七、乙第四〇各号証にもこれに添う証言があるが、右は前掲乙第七ないし第九号証の各二の記載に照らし採用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

八  算出数額の妥当性について

1  以上のとおり、正味賃料及び業務管理費の算出過程及び算出結果の相当性について検討して来たが、最後に原処分庁たる被告が算出し、審査庁が一部訂正した復成原価、物件別年額賃料及び事業年度別賃料の各算出額の妥当性につき、これらと前掲甲第一号証(積算法、賃貸事例比較法、収益分析法を総合して求めたもので、以下、「鑑定額」という。)とを対比して検討する。なお、右表は、食堂施設を店舗に含め、三号倉庫敷地については鑑定額を八一・七坪に換算したうえ、千円未満を四捨五入して計算したもので、単位は万円であり、表(3)の鑑定額については正味賃料のみ、算出額、支払賃料額については正味賃料と業務管理費とを合算したものである。

2  まず復成原価について算出額と鑑定額とを対比すると次表(1)のとおりであって、二号倉庫、三号倉庫、車庫については算出額が鑑定額に比して著しく低額となっていることが明らかであるが、鑑定額の算定方法に疑問があることは前記二の1で示したとおりであり、このことは一号倉庫の鑑定額についてもあてはまる。また材料置場についても、算出額が鑑定額に比して低額であるが、該土地の取得時期は昭和四〇年六月二八日であるから、それから約半月後を基準時とする復成原価につき、取得価格をもってそのまま復成原価とした算出方法が相当であることは前示のとおりであり、そうすると鑑定額との対比から、算出額が低きに失するとまではいえない。右以外の建物及び敷地については、算出額と鑑定額とは、ほぼ合致しており、ことに鑑定額中の妥当性が疑問とされる右建物についての額を算出額に置き換えてみると、算出額(A)の合計と鑑定額(B)の合計とは、ほとんど一致するのであって、この点からも算出額は妥当なものであるといえる。

表(1) 復成原価

3  次に、物件別年額賃料については次表(2)のとおりであって、店舗以外の年額賃料の算出額は鑑定額より低額となっていることがこれにより明らかであるが、この点も前項で述べたと同様のことが当てはまるのであって、表(1)と表(2)の各B-Aの欄とを参照すると、かえって算出額の妥当性を肯定することができる。

表(2) 物件別年額賃料

4  さらに取消訴訟の対象となっている事業年度別賃料について算出額(A)と鑑定額(D)、適正な業務管理費を加えた算出額(C)と支払額(E)を対比してみると、次表(3)のとおりである。

表(3) 事業年度別賃料

第五原告の違法性の主張について

一  正常賃料と支払賃料について

原告は、現代の我国においては正常賃料なるものはあり得ず、現実に支払った賃料は常に合理的かつ相当である旨及び仮に正常賃料を算定し得たとしても、支払賃料は相当な額であって、正常賃料の範囲内に存する旨主張するが、合理的に算定した正常賃料が存在することは明らかであり、その厳密な価格の算定は困難であるにしても不可能ではないものというべきである。けだし、申告納税方式による国税の納税義務者の申告内容は必ずしも適正、妥当に計算されているとは限らないのであるから、これを放置することは租税負担の公平を失することになるので、国税通則法は、国に申告内容の検討を要求し、同法第二四条において「税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準又は税額等を更正する。」と規定していることからも明らかである。これを賃料についていえば、調査した結果えられた賃料額と申告書記載の支払賃料額とが相違するときは、租税負担の公平を期するため、その差額が著しいか否かを問わず、裁量権の範囲を超えない限度で更正することができるものと解すべく、本件の場合、調査の結果算出された合理的賃料額は第四の八第2項の表(3)の(C)の欄に示したとおりであり、支払賃料額が右算出額より高額であることは同表に示すとおりであって、両者の比率は同表のE-Cの欄に示すとおりであるから、両者の間に相違が存するものとして更正したことは違法ではない。

二  寄付金について

原告は、正常賃料額(算出額)と支払賃料額との差額を寄付金と認定したのは、法人税法第三七条第五項の解釈を誤ったものであって、違法である旨主張するので考える。

法人税法は、各事業年度の所得を法人税の課税対象とし(同法第五条)、右所得の金額は「当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする。」と規定したうえ(同法第二二条第一項)、右益金に算入すべき金額は「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は労務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」とする旨定めている(同条第二項)。そして、ここにいう益金とは、資本の払込み以外において資産の増加となるべき一切の事実に基づく経済的利益をいうものと解される。ところで、資産の無償譲渡または労務の無償提供は現実に対価を取得させるものではないのに、法がこれに係る「収益」ということを定め、それが益金に該当するとしているのは、資産の譲渡、労務の提供があった場合、その対価がいかほどであろうとも、その資産等は時価としての経済的機能を有していたのであるから、これが譲渡等によって当該法人の手許を離れるときにおいて、資産等の経済的価値が顕在化して担税力を示すものとして、その顕在化した経済的価値を「収益」として把握すべきことを規定した趣旨と解される。これを本件についてみると、賃料として支払った金銭が資産に該当することはいうまでもなく、正常賃料を超えて支払うべき合理的事情がないにかかわらず賃料を支払った場合には、支払賃料のうち正常賃料を超える部分は、賃料としての対価性を喪失し、無償の資産譲渡ということになる。次に、法人税法第三七条第五項は、寄付金の額は、寄付金、きょ出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、法人が金銭その他の資産の贈与または無償の供与をした場合における当該金銭の額によるものとし、同項かっこ内の広告宣伝及び見本品の費用その他これに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきもの(以下、除外費用という。)を除くと定めている。ところで、寄付金の中には、法人の事業に関連を有しその収益を生み出すのに必要な費用といえるものと、そうではなくて単なる利益処分の性質を有するにすぎないものがあるところ、当該法人が現実に支出した寄付金のうち、どれだけが費用の性質をもち、どれだけが利益処分の性質をもつかを客観的に判定することは極めて困難であることから、同法第三七条第二項は、行政的便宜及び公平の見地から、統一的な損金算入限度額を設け、寄付金のうち、右限度内の金額は費用としての損金算入を認め、それを超える部分の金額は損金に算入しないものと定めている。従って、資産の無償譲渡に当ることが肯定されれば、それが除外費用に該当しない限り、仮にそれが事業と関連を有し法人の収益を生み出すために必要な費用といえる場合であっても、寄付金性を失うことはないというべきである。また、無償の譲渡である以上、公平の観点からして、正常賃料と支払賃料との差額が著しいか否かを問わず、その寄付金性を肯定すべきものと解するのが相当である。これを本件についてみると、正常賃料の額は前段認定のとおりであり、支払賃料のうち右正常賃料を超える部分は無償による資産の譲渡であるものというべく、かつこれが除外費用に該当しないことは明らかであるから、右超過部分は賃料の名義をもってした寄付金であると認めるのが相当であり、これと同趣旨の見解の下になされた更正処分は違法ではない。

第六本件処分の適法性について

原処分は裁決によって一部取消され、取消されなかった部分に関する原処分、即ち本件更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定処分のうち、更正処分が、以上のとおり過大に支払った賃料の部分を寄付金と認めたことは相当であり、かつこれを基礎にして損金算入限度額を求め、所得金額、法人税額を算出した算出結果が被告の主張2のとおりであることは当事者間に争いがないから、本件更正処分は適法であり、また国税通則法第六五条第二項所定の正当な理由のあることについて主張、立証はなく、同条第一項に従った算出結果が被告の主張3のとおりであることは当事者間に争いがないから、本件賦課処分も適法である。

第七結論

以上のとおり本件処分は適法であるからその取消を求める原告の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原健三郎 裁判官 木原幹郎 裁判官 佐藤公美)

処分目録

物件目録

(一) 鶴岡市日吉町一一番地一五所在

家屋番号 一一番一五

鉄筋コンクリート造陸屋根二階建店舗

床面積(登記簿面積) 一階五四七・九三平方メートル(一六五・七五坪)

二階五七〇・二一平方メートル(一七二・四九坪)

(実測面積) 一階五七八・五一平方メートル(一七五坪)

二階五七八・五一平方メートル(一七五坪)

(店 舗)

(二) 鶴岡市日吉町一一番地四四号、四三号所在

家屋番号 日吉町一一番四四号

軽量鉄骨造亜鉛メツキ鋼板葺二階建倉庫

床面積(登記簿面積) 一階二六一・八八平方メートル(七九・二二坪)

二階一八四・八九平方メートル(五五・九三坪)

(実測面積) 一階二七七・六八平方メートル(八四坪)

二階一九五・〇四平方メートル(五九坪)

(一号倉庫)

(三) 鶴岡市宝町九番地六九号所在

家屋番号 宝町九番地六九号

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建倉庫

床面積(登記簿面積) 一三二・四九平方メートル(四〇坪)

(二号倉庫)

(四) 鶴岡市宝町八番地四二号所在

家屋番号 八番四二号

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建物置

床面積(登記簿面積) 八五・六八平方メートル

(三号倉庫)

(五) 同所八番地四三号所在

家屋番号 八番四一号

木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建車庫

床面積(登記簿面積) 一階一一六・七〇平方メートル

二階 七七・四二平方メートル

(車 庫)

(四)と(五)の実測合計面積 一階二〇一・三〇平方メートル(六一坪)

二階 六四・三五平方メートル(一九・五坪)

(六) 鶴岡市大字新形字相見三九、四四、四五所在

宅 地 五一〇坪

(材料置場)

別表(一) 各契約時の賃借料年額算定表

別表(二) 店舗の各社使用割合算定表(昭和39年7月1日から同年12月31日まで)

別表(三) 店舗の各社使用割合算定表(昭和40年1月1日から同41年12月31日まで)

別表(四) 店舗の各社使用割合算定表(昭和42年1月1日以降)

別表(五) 倉庫の各社使用割合算定表

別表(六) 各社別賃料年額算定表

別表(七)

正常賃借料算定表(阿部機工)

(1) 自昭41.8.1至42.2.28事業年度分

建物図面(店舗)(昭和39年7月1日から同年12月31日まで)

建物図面(店舗)(昭和40年1月1日から同41年12月31日まで)

建物図面(店舗)(昭和42年1月1日以降)

建物図面(倉庫)

一号倉庫

三号倉庫

二号倉庫

別表(一二) 土地建物位置図

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